ドラえもん

 


 江戸時代初期、初代酒井田柿右衛門が赤絵付けに成功して以来400年近く、乳白色の素地に明るい色絵を持つ柿右衛門磁器は広く愛された。日本の焼物の代名詞ともいえる柿右衛門が、大切な食器、高価な骨董、九十九神の宿る器、理想郷のシンボルなど、人々の抱く様々なイメージで描かれる国内外の小説、テレビドラマ、随筆、詩歌などを紹介する。


 
 
 ドラえもんの誕生日は2112年9月3日。生誕100年前にあたるこの秋(2012年秋)、メディアに登場する機会も多かった。藤子・F・不二雄の同名漫画の主人公、猫型ロボットドラえもんの人気は高い。昨年川崎市にオープンした藤子・F・不二雄ミュージアムは、漫画家の代表作、パーマンオバケのQ太郎とともにドラえもん目当てにこの夏休みも子供達で賑わった。
 2006年出版の「ドラえもん プラス 4」に収録された『みせかけ落がきペン』に柿右衛門の壺が登場する。
家のお座敷のテーブルに飾られていた壺に、のび太の蹴ったサッカーボールが当たり、粉々に割れてしまう。のび太はママから、それが高価な柿右衛門の壺と教えられ、何百万円もする“カキレモン”の壺を割ってしまったとドラえもんに助けをもとめる。壺は骨董好きのパパが気にいって売り手の業者から預かったのだが、やはり手がでないと返すことになっていた。 
ドラえもんは「復元光線」で直そうとするが、運悪く故障していて使えない。急場しのぎに名前や簡単な絵を書くとそこに本物が見える「みせかけ落がきペン」を出してもらい、テーブルにこのペンで“カキエモンのツボ”と書いた。ママが見ると立派な柿右衛門の壺がそこにあった。しかしこれは「落がきチェックミラー」で見ると、もとの文字しか見えないし、実際には存在しないのだから触れない。二人の不自然な行動を不審に思ったママが、風呂敷に隠したものを見つけ、問いただそうとしたその時、ドラえもんが直った「復元光線」を照射して、壺を元どおりにしてくれた。
小学四年生(小学館)19861月号に、同名のタイトルで掲載された一話で、柿右衛門の壺は「壊したら大変な、とても高いもの」として描いている。のび太が“カキレモン”と言うのは微笑ましいが、ドラえもんは“柿右衛門”と聞きその深刻さを悟る。のび太を助けようと種々の道具を取りだす必死の様子が伝わり、たのしい作品になっている。のび太ドラえもんは表情豊かに丁寧に描かれている。壺の絵は時代物の赤絵の柿右衛門の雰囲気が出ている。
「復元光線」は懐中電灯形の道具で壊れてしまった物を元に戻す力を持ち、他のエピソードでも割れた花瓶を元通りに直す。高価な花瓶は子供にとって壊したら大変、でもうっかり壊してしまうものなのだろう。ドラえもん全作品を紹介するファンのサイト『青いロボットの伝説』にこのエピソードの解説がある。
 
久々にのび太がアクティブに走り回っており、そのために展開そのものも動きのあるものになっています。道具が間に合うのかどうか、さらに複数の道具を登場させる事で何の道具が解決アイテムになるのかを最後まで不明にしている事で、終盤までの展開をスリリングなものにしていますね。他には落書きを律儀に殴り続けるジャイアンのび太の仰天顔も注目ですかね。
 
柿右衛門の壺を割るという事はのんびり屋ののび太をも「どうにかしなきゃ」とあわてさせる。現代の小学生読者も柿右衛門は「高価なもの」、「大人が大切にしている宝」というイメージを共有するのだろう。
藤子・F・不二雄パーマンオバQなど子供の夢をかなえる楽しい漫画で普遍の人気を誇る。1933年生まれの作者は尋常小学校五年生の国語教科書で「柿の色」を学んだ世代に属する。
 
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『みせかけ落がきペン』 藤子・F・不二雄てんとう虫コミックスドラえもんプラス 4」小学館2006
『最新ひみつ道具大辞典』監修:藤子・F・不二雄 (小学館 2008)