世界アルツハイマーデー  各地のランドマーク「柿右衛門の赤」でライトアップ

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オレンジ色にライトアップされた佐賀大学美術館(2020年9月)


 毎年世界アルツハイマーデーの9月21日を中心に日本各地の名所がオレンジ色にライトアップされる。昨年(2020)は 城、橋、タワーなど全国約100ヶ所の史跡、ランドマーク、自治体の庁舎等が認知症啓発、支援活動のシンボルカラー、オレンジ色にライトアップされた。

 佐賀市佐賀大学美術館はじめ、甲府駅前の武田信玄像、兵庫県の姫路城、京都タワー水戸芸術館、栃木県の足利学校、神奈川県庁、福井県一乗谷遺跡唐門、長崎市稲佐山テレビ塔などがオレンジ色に照らされた。世界アルツハイマーデー当日はズームで結び約30か所のライトアップの様子をユーチューブでライブ配信した。

 ライトアップのニュースは新聞等で取り上げられ、シンボルカラーのオレンジ色は「柿右衛門の赤」に由来すると報じられた。

 厚生労働省は2005年から「認知症を知り 地域をつくる10ヶ年」キャンペーンの取り組みとして、「認知症サポーターキャラバン」と名付けた認知症を正しく知り理解し、患者と家族を手助けする認知症サポーターの養成講座を開き、受講修了者にオレンジ色のブレスレット、「オレンジリング」が配られた。なぜオレンジリングなのか。「認知症サポーターキャラバンの手引き」にかかれている。

 

「柿色」をしたオレンジリンクは、認知症サポーターの目印です。江戸時代の陶工・酒井田柿右衛門が夕日に映える柿の実の色からインスピレーションを得て作り出した赤絵磁器は、ヨーロッパにも輸出され世界的な名声を誇りますが、同じく“日本発”の「認知症サポーターキャラバン」のオレンジリングが、世界のいたるところで「認知症サポーター」の証として認められればとの思いからつくられました。

 なお温かさを感じさせるこの色は、「手助けします」という意味をもつと言われています。 

 

 夕日に輝く柿の実のような鮮やかなオレンジ色は、柿右衛門色絵磁器を象徴する。

柿右衛門の色絵に使う釉薬(絵具)は佐賀県有田町の酒井田柿右衛門家に残る江戸時代の古文書、「赤絵之具覚」に記される秘伝の調合に従い作られる。代々の柿右衛門のみが受け継ぐ。“けそう”(鉛白。釉薬をとかし光沢を増す媒溶剤)、“びいどろ” (ガラス、フリット)、 “ろくはん“ (緑礬。ロウハとも呼ばれ磁硫酸鉄鉱から精製し、焼成してベンガラを作る)の調合法が記されている。

 赤色の元となるベンガラ(酸化鉄)を、水を張った壺に入れ約十年寝かせ、塩分や不純物を取り除き、赤の粒子を取り出す。調合し、鮮やかな色を得るため摺り重ねさらに粒子を細かくする。 柿右衛門窯では最も明るい「花赤」、柿の実などに使う「濃赤」、輪郭を描く「赤カバ」等を使い分ける。

 柿右衛門磁器の文様は絵とデザインの中間といわれ実際の色とともに、梅花、菊、桐の花、鳳凰の尾、鳥の羽や口ばし、胸毛、竹の葉や柴垣にも赤が使われる。

 十四代柿右衛門さんによると、赤絵具の微妙な発色が得られるのは化学的に製造されたものではなく昔の銅で、屋根修復の際提供を受けた東本願寺増上寺、中でも米沢の上杉謙信一族のお墓に使われていた古い銅瓦からよい色が得られたとのことだ。

 初代柿右衛門(喜左衛門)が記した赤絵初まりの「覚」の写しによると、中国の技術に学び、白磁に上絵付けをする色絵(赤絵)の技術は、正保4年(1647)以前に開発に成功した。

 乳白色の磁胎濁手に華やかな赤絵の映える柿右衛門様式はほぼ400年前に完成し、伊万里港から輸出された。東インド会社の公式記録によると1650年から1757年までに約123万個の肥前磁器が輸出され、世界に広まった。

 華やかな色絵はヨーロッパを魅了し、王侯貴族は宮殿や邸宅を飾り、祝宴を開いた。コレクションは現在も残り、17世紀の絵画にも室内に飾られている様子が描かれている。

 柿右衛門の赤絵はヨーロッパの窯業を刺激し、ドイツのマイセン窯は磁器製造に成功し、マイセン、イギリスのチェルシー窯、ボウ窯、フランスのシャンティ―窯等は盛んに柿右衛門写しの色絵磁器を製産した。

 九州観光推進機構の市場調査によると、米、英、豪からの旅行者の関心は陶磁器に最も高かった。又、幅広い層の女性が有田焼の歴史に関心を示している。調査は火山、温泉、陶磁器から選ぶもので、肥前磁器は今も変わらぬ人気を保っている。(佐賀新聞 2021年 4月8日付)。 

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 世界アルツハイマー病協会(Alzheimer‘s Disease  International,  ADI,  London)が認知症への正しい理解、患者と家族への支援を広める啓発活動の一環としてはWHOと協同で1994年に毎年9月21日を「世界アルツハイマーデー」と設定し、

2012年からは9月を「世界アルツハイマー月間」と設定した。

 日本では公益社団法人認知症の人と家族の会(Alzheimer‘sAssociation Japan、 AAJ)を1980年結成。AAJは1992年 国際アルツハイマー病協会に加盟し、2013年以来、世界アルツハイマーデーに全国でライトアップが行われる。

 2012年に厚生労働省が公表した「認知症施策推進5カ年計画」)は「オレンジプラン」、団塊の世代が75歳以上になる2025年を見据えた事業、「認知症施策推進総合戦略 2015-2025」は新オレンジプランと名付けられ、認知症の人が認知症とともによりよく生きていくことができるような環境整備をめざす。

 認知症への理解促進の一環としてシンボルカラーであるオレンジ色のサポーターグッズ、リング、マスク、ロバ隊長の縫いぐるみなどが作られている

 認知症の不安をかかえ、外出をためらうようになった人が立ち寄れる憩いの場、認知症カフェはオレンジカフェと呼ばれる。

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 今年のアカデミー賞の主演男優と脚色部門は英仏合作映画「ファーザー」の主演アンソニー・ホップキンスと、脚本と監督のフローリアン・セレールが受賞した。 認知症の父と世話をする娘(オリヴィア・コールマン)の物語で父の視点で描かれる。

認知症の親戚をモデルにした自身の戯曲を映画化したセレール監督のインタビューは(YouTube)<www.youtube.com/watch?v=utYgoRE_HYI>にある。

「『ぼけますから、よろしくお願いします』1200日の記録」は令和元年度(2019)、文化庁映画賞、文化記録映画賞、ほか数々の賞を受けた信友直子監督の広島県呉市に暮らす両親、95歳、87歳、のドキュメンタリー。母が認知症になり父が世話をする。

テレビドキュメンタリ―を元に、追加取材と再編集をして2018年劇場公開された。同名著書が新潮社より出版されている。

 信友さんは5月14日(2021)の文化放送大竹まことのゴールデンラジオ」にゲスト出演して、撮影裏話や両親との交流を語っている。ポッドキャストhttps://omny.fm/shows/program-18/2021-5-14-2〉で聞くことができる。 

 二本の映画は認知症を正しく理解し支援の輪を広げるうえで、示唆に富む。 

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 地元川崎市麻生区の「タウンニュース」5月21日(2021)号に鮮やかな「柿右衛門の赤」のぬいぐるみのロバ隊長の写真が掲載されていた。 地域の認知症支援の有志団体がオレンジ色のマスコットキャラクター、ロバ隊長のストラップを手造りしている。 認知症カフェ,ロバ君倶楽部の一つオレンジリング百合丘に参加する手芸好きが2019年11月に活動開始し、今まで1,000体以上を作り、サポーター養成講座の受講者に460頭を配った。

 最近再放送された、北九州市でホームレスの支援活動を行う牧師奥田知志氏の活動を紹介するNHKのドキュメンタリーで、支援活動をする人の中にオレンジリングをしている人の姿があった。

 オレンジをシンボルカラーとする支援活動が地域に浸透し身近な所で行われていることを知る。

 今月初め(2021 6月7日)アルツハイマー病の進行を抑制する新薬がアメリカで承認されたとのニュースが報じられた。 アメリカのバイオジェンと日本のエーザイの共同開発したアデュカヌマブで原因の物質アミロイドβを脳内から除去し病気の進行を抑える世界発の薬となる。

 世界の認知症患者約5000万人のうち6から7割がアルツハイマーといわれ、誰もが関係のあることとして受け止めなければならない時代、「柿右衛門の赤」がシンボルカラーとして啓発と支援の運動を促進する役割を担えることを願う。 

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十四代柿右衛門さんが校長を務めた佐賀県立有田窯業大学校は

2016年に佐賀大学に統合され、新設の芸術地域デザイン学部としてスタートした。